「直樹!」

教室に入ると、弁当をパクつく直樹がいた。

「お前。どういうつもりだ!」

和也は、直樹を教室から引きずり出した。

「同情してるつもりか!」

和也は、直樹の襟を掴んだ。

「ちがう」

「だったら、取り消せ!」

「いやだ」

直樹は、真っ直ぐに和也を見つめる。

「東條だぞ!通ったんだぞ!」

「関係ない」

「関係ないだと!お前はいけるんだぞ!俺とちがって!」

直樹は、襟を掴んでいる和也の腕に手を置いた。

「お前は、行きたかったんだろ」

直樹は、ゆっくりと、
腕を首もとから離させる。

「俺もだ」

「直樹…」

和也は微笑む。

「だから、今は…お前と大路に行きたい」

直樹は、立ちつくす和也をすり抜けて、教室に戻ろうとする。

はっとして、和也は振り返る。

「お前。お爺さんたちは、田舎に引っ越すんだろ!東條は、全寮制だったが…住むところ、どうするんだ!」

直樹は振り返り、

「何とかするよ」

「何とかって…」

「大路は公立だから、学費も、東條に比べて、格段に安い」

笑顔を、和也に向けたまま、

「あまりお爺さんたちに、負担をかけなくてすむ」

「…」

「だから…いいんだよ。和也」

直樹は教室の中に入った。

「直樹…」

和也はただ、直樹の背中を見つめるだけだった。