「完成したわ」

出来上がった新居であり…新しい店である建物を、眺めながら、

恵子は背伸びをした。

「まったく…こんな場末に建てなくても…」

健司は、タバコを吸いながら、愚痴った。

「いいのよ。あたしは、ここで…永遠の歌を聴かせたいの」

「永遠の歌?」

恵子は頷き、

「流行とか関係なく…美しく切なくて…綺麗な音楽を」

恵子は、後ろを見た。

広がる街並み。

「この世界は…悲しいことや、残酷なことが溢れてるわ。だから、せめて…音楽だけでも…美しい音が、集まる場所を作りたかったの」

ダブルケイ…。

それは、恵子の願い。

「永遠は無理だろ。俺たちが亡くなったら…」

健司の言葉の後を、

恵子は続けた。

「あたしたちの子供たちが、受け継いでくれるわよ。その為に、頑丈につくったんだから」

「やれやれ…借金地獄か」

健司は、ため息をついた。

「なあに!店が、軌道にのれば、大丈夫よ!」

「俺も…スタジオの仕事増やすか…。もうすぐ、俺たちのアルバムが出るけど…売れるか…わからないしなあ」

恵子は苦笑し、

「頼んだわよ。あなた」

「任せなさい」


2人は笑い合い、出来ばかりの店を見上げた。