「ママ!」

外に飛び出したけど、

もう恵子の姿はなかった。


「どうした?誰も、出て来なかったけど」

後ろから声がして、明日香は振り返った。

「里美…」

扉の横の壁にもたれ、里美は腕を組んで立っていた。

里美は、明日香の手元を見て、

「やっぱり…あんたが、音楽を、やめれるわけがないんだよ」

「あ」

明日香は、トランペットを見つめた。

「ったく…あんたら、親子は…」

里美は頭をかくと、

「手間がかかる。あたしが、面倒みないと駄目なんだから…」

「里美!」

里美は、明日香を指差し、

「だ・け・ど!迷惑かけてるなんて…思うなよ!あんたの音は、いろんな人を幸せにしてるんだから!」

里美は扉を開け、

「そして、そんなあんたを、支えていることが…あたしの誇りなんだ」

「里美…」

明日香は、トランペットをぎゅっと抱き締めた。

里美はフゥと、息を吐くと、

「さっさとステージに戻れ!みんな、待ってる」

里美は、明日香に笑いかけた。

明日香は頷き、急いで店内に戻る。

扉が閉まる前に…

明日香は、振り返った。

「ありがとう…ママ」

明日香は、トランペットを握りしめ、ステージへと戻っていった。