黄昏に香る音色 2

明日香は優しく微笑みながら、

父親の顔を見た。

「明日香…」

「お父様…」

明日香には、父の言葉が嬉しかった。

「明日香。今…会社には私の片腕がいない。信用できる者がほしいんだ!」

光太郎は、思わず身を乗り出す。

明日香は、目をつぶると…ゆっくりと目を開き、

「お父様」

「明日香!」

「あたしは…会社を継げません」

明日香は首を横に振り、

「今…あたしがいなくなれば、店を開ける者が、いません」

明日香の言葉に、

光太郎は絶句した。

「あんな店が…この会社より、大事だと」


「お父さん…あの店は、あたしにとって、特別なの」

ゆっくりと、明日香は立ち上がると、

深々と頭を下げた。

「あの店を守ることが…あたしにとって、今一番大事なことなの」

明日香は、会長室から出ていく。



1人になった会長室で、光太郎は肩を落とした。

「大切な場所か…」

光太郎は、自嘲気味に笑った。

大切な場所。

光太郎は、会長室を見回し、

やがて…

寂しげに顔を伏せた。