黄昏に香る音色 2

「どういうことなんだ!」

会長室で、受話器を握り締め、光太郎は叫んでいた。

「歌手がいきなり、引退するとは…契約がちがう」

志乃のアメリカデビューのバックアップと、広告料に、

スポンサーとして、莫大な資金を投入した時祭グループは、もとを取り返す前に、

志乃の引退により、大損をするかもしれなかった。

それだけではなく、

跡取りとして考えていた孫の香里奈を、世間にさらすことになった。

レコード会社も、戸惑っているようで、まともな回答がかえってこない。

受話器を叩ききった光太郎は、舌打ちした。

その時、

扉が開いた。

「失礼します。お呼びでしょうか?」

会長室に入ってきたのは、

和也だった。

和也の顔を見た瞬間、光太郎は、烈火の如く怒った。

「お前は一体何をしている!香里奈とは、どうなったんだ!」


和也に詰め寄る光太郎。

和也は無表情で、光太郎を見つめ、

「別に、何もしておりません」

その答えに、怒りを露わにする光太郎。

「香里奈を、口説けと言っただろ!」

「言われましたが…無理です。また、する気もございません」