黄昏に香る音色 2

「和也…」

直樹は、和也に近づいた。

「どうしたんだ?一体…」

和也は家を見上げ、

「久々に…見たくなったのさ」

「突っ立ってないで、中に入れよ」

直樹は、ドアを開けた。

促されて、和也は中に入った。

そこは店だった。

カウンターに、テーブル席。

小さな小料理屋だった。

「綺麗にしてるな…」

和也は感嘆した。

カウンターもテーブルも…

食器類も…

何もかもが、綺麗に掃除され、片付いていた。

まるで、今でも営業をしているような…錯覚に陥る。

もう何年も、営業していないのに。

和也は、店内を歩いた。


ここが始まりだった。

和也の母と父が始めた…

初めての店。




「ちょっと荷物置いてくる」

直樹は、奥の階段を登っていった。

和也は、カウンターに座った。

思い出が蘇る。

父親がカウンターと、厨房で料理をし、

母がホールを忙しく、動きまわる。

小さな和也は、カウンターに座り、その様子を眺めていた。


あの頃は、永遠だと思っていた光景が、

今は…遠い昔のことだ。




「お待たせ」

階段を降りてきた直樹の声で、

和也は、現実に戻った。