黄昏に香る音色 2

直樹は一瞬…驚いたが、

すぐに、真剣な表情になった。

きちんと姿勢を正すと、直樹は深々と頭を下げた。

「ごめんなさい。俺は…」

直樹の言葉を、里緒菜は止めた。

「わかってるから!いいの…」

「如月さん…」

「逆に…その答えじゃなかったら、怒ってた」

里緒菜は、くるっと一回転すると、

また直樹に背を向けて、歩き出した。

顔を、見せる訳にはいかなかった。

涙が溢れていた。

見せる訳にはいかない。

「今度の劇…がんばろうね」


「うん」

直樹は頷く。

「でも…台本変えたの?」

「変えてないわ。最初のままよ」

そう。

かなわなくても、

最初の気持ちは、変わらない。


「こんな遅くに呼び出して、ごめん」

里緒菜は、振り返った。

直樹と少し離れたから。

暗がりとこの距離。

顔がよく見えないはずだ。

「こんなところで悪いんだけど…お別れしましょう」

もう限界だった。

「また明日…学校で。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

里緒菜は手を振ると、走り出した。

涙がまた…止まらなくなっていた。

涙を見せたくなかった。

直樹に、変な心配をさせたくなかった。