Caught by …



 彼は気に入ったソファーを値段も見ずに購入してしまった。後で見たら私は心臓が圧迫されるくらいの金額だったけれど、彼はすました顔をひとつも崩さずにいた。

「次はどこに行くの?」

 もう日が暮れてきて帰るのかと思っていた私の手を引く彼は、駐車場とは反対方向に歩いていて、やはりと言うべきか質問に答えない。

 いや、これは彼のサプライズ的演出なのだと考えた方が良いのかもしれない。無視されることにいちいち腹を立てていたら、その度に彼と喧嘩しなくちゃならない。

 諦めて大人しくついていく私を、彼は一瞥して、また前を向いた。そして、繋いでいた手を一度離して、今度は指を絡ませるようにして繋ぎ直した。

 それだけで頬が緩んで、私もその手をギュッと握り返す。二人とも顔を反らして、それでも繋いだ手と触れる腕の温もりが側に居る安心を与えてくれる。手から彼の温度が伝わって、私の冷たい手を温めてくれる。

 この時間が終わらなければ良いのに。

 そんな子供じみた考えに笑ってしまうと、彼が「ん?」と顔をのぞきこむ。

「なんでもない」

「そう言われると気になるだろ、言え」

 彼は私の「なんでもない」という言葉が嫌いみたいだ。

「んー…そうね、分かったわ。あなたがとんでもない変態で寂しがりやでキス魔だと、気づいた事を頭の中で整理していたのよ」

「酷い言い方だな」

「あら、これでも優しく言ってるつもりなのに」

 彼は不機嫌そうに顔をしかめているけど、口元は少し笑っていた。