Caught by …



 車のシートベルトが、さっき食べたサーモンとクリームチーズを挟んだベーグルと中にマシュマロが入ったホットチョコレートで大きくなったお腹を締め付けていた。

「おい、大丈夫か」

 心配されるほどの顔をしているのかな。

「ええ、なんとか?」

 窓からの景色をぼんやり見ながら、気のない返事をする。

 あの後、泣き止んで私の中の何かが少しだけスッキリした気がして、しかも、出てきた料理があまりにも美味しすぎて、追加でホットチョコレートを頼み、コーヒーのおかわりまでしたらお腹がパンパンに膨れていた。

 でも、ここで車を止めて休みたいなんて我が儘は言えない。時間が経てばその内この苦しさはなくなるだろうし。

 次はどこに行くんだろうか、と見慣れない景色がどんどん前から後ろに過ぎ去っていくのを見送りながら思う。

 それにしてもレイの車の中は、当然だろうけどレイの匂いがして、とても落ち着く。香水とほのかな石鹸の匂い。座席に頭をもたせかけると、彼に抱き締められているように感じて目を閉じた。

 こんな風に安心して誰かと過ごすなんて久しぶりだ。私はうつらうつらと意識を彷徨わせて何度か目を開けたり、閉じたりをゆっくり繰り返す。けど、次第に目が開けられなくなって、いつの間にか夢の中へと引きずり込まれていた。


“セシーリアはお姫様の方が合ってるのに”

 いつかの姉の言葉。あれは学校の演劇。私は確か魔女の役。お姫様は私なんかよりも可愛くて良い子だった。王子様は、私の初恋の人だった。二人が並ぶと本当にお似合いで、私はお姫様を王子様のもとへと送る…そんな役が適任なんだと思い知らされた。

 私はお姫様になんかなれない。あの時からそれはずっと変わらない。