Caught by …

「せめて、おはようのキスは?」

 からかうようなレイの笑み。それさえもハンサムで、私は一瞬だけ触れるキスを彼の頬にする。

「それだけ?」

 不満そうな彼を無視してコーヒーを飲みきってやり、さっさと洗面所に逃げた。彼は好きだけど、彼の思いのままになるのは好きじゃない。

 …いや、ほんとは頬にするだけで今の私には精一杯だった。

 だって、朝になったら前のように彼は居なくなるのだと思っていた。実際、ベッドには居なかったし。

 でも、もし彼と同棲したら、あんな感じなのだろうか。新聞を読む彼の横顔、長い足を組んで、片手には私とお揃いのマグカップ…なんて。

 洗面所の鏡に映る私は頬が赤く染まって、まるで小さな子供みたい。

「だめよ、セシーリア。自分を見失ってはいけないのよ」

 顔を引き締め、長い髪を一つにまとめて水で顔を洗う。濡れた顔をタオルで拭いて息を吐き出す。

 洗面所から戻ると、レイはコートを着てどこかへ出掛けようとしているみたいだった。

「帰るの?」

 寂しいだなんて顔に出さないようにして聞く。

「ああ、でもすぐ戻ってくるから、その間にセシーリアも出掛ける準備をしておけよ」

「準備?どこへ?」

 意味がわからず聞いても、レイは何も答えないでそのまま私を通りすぎて行く。そして玄関の外へと消えていった。

「何よ、優しくデートに誘えば良いのに!」

 通りすぎたときに見えた照れた顔を、私は見逃していない。彼は案外シャイなのかも、と思うと自然と笑みがこぼれた。