Caught by …

†

　夢を見ていた。私が生まれ育った町。夕暮れの温室。花の芳しい匂い。私を探す母親の声。幸せなはずなのに、私は泣いていた。

　泣いていた目を拭って目を開けると、冷たい石が幾つも並ぶ芝の上に立っていた。私の目の前にある石に刻まれた文字。そこには──Sophia Evans──と書かれていた。

　…姉の名前だ。

　目を開けて、ベッドの上だと気づくのに数十秒。そして、これが夢ではなく現実だと気づくのにも時間がかかった。

　まだ起きない頭だけれど、習慣となって癖付いているように時計を見て、重いため息。すっかり寝坊していて、12時前だ。ブランチどころかランチタイムだ。

　起きる気はしないがこのままぐうたら寝るには明るすぎて、結局体を起こしてベッドから出た。

　ふと、コーヒーの匂いが鼻をかすめた。

　眠い目をこすり、欠伸を噛み締め、キッチンの方へ目を向けて、思考が一旦止まる。

「起きたのか」

　さも当たり前のように私のマグカップを手に新聞を読む彼の横顔。ここがどこなのか分からなくなって首を傾げる私に、こちらを向いたレイが訝しげに…いや、明らかに睨んだ。

「おはようと可愛く挨拶もできないみたいだな」

　なんで朝から私の気を逆撫でするのかしら。

「あら、ごめんなさい。あなたがまだいるなんて思わなかったの」

　素直になれたら、なんて常日頃から気にしてるけど…簡単じゃないのよ。私はレイのいる所まで行って、彼の手からマグカップを奪い取る。それに口をつけて飲むと、いつも飲んでいるコーヒーより少し濃くて苦かった。そのおかげか完全に目が覚めた。