Caught by …

 彼の言葉に痛いほど胸が締め付けられる。私は首を振って彼の背中に腕を回した。

「嘘じゃない。ほんとよ、レイ」

 彼の腕に力が込もって、私の肩に彼が顔を埋めた。

「……トムと、別れろ」

 そうして聞こえたくぐもった声。だけど私は何も言えなかった。

 今すぐトムと別れてあなたのものになりたいと素直に言えたら…そして、それが実際にできたなら…どんなに良いだろうか。

 私は、ただぎゅっと彼に抱きついた。

「ごめんなさい」

 謝ることしかできない卑怯な私なのに、レイは私を責めず、その大きな手で頭を撫でてくれた。


 こんな時に優しくしないで。

 私はレイが好き。

 でも、今までの環境を捨ててあなたを選ぶ勇気がない。

 優しいトムに本当のことを告げる勇気がない。

 私の一言で家族がこれ以上ばらばらになってしまうのが怖い。

 最低な女だと友人たちから嫌われるのが怖い。

 レイだけを頼りにして、レイに縋るしかできなくなりそうで怖い。

 独りになるのが怖い。

 ごめんなさい、レイ。

 それでも、どうしてもあなたが好き。


「泣くな、分かったから…泣くな」

 彼の落ち着いた声も、頬を包む温かい手も、優しく重なる唇も、全部好き。