「なんで…ここに?」

 掠れた声は今にも消えてしまいそうなほど弱々しい。

「なんでって、部屋に来るって言ったまま来ないから探しに来たのよ。あなた、いつもここに…」

 そこまで言って口を閉じる。これじゃあ、私がいつもレイがここにいるのを知っていたと言っているようなもの。慌てて弁解しようとした私を、彼は鼻で笑って前へ向き直った。

「なんだ、俺を知ってたのか。あんたはいつも素通りするから俺のことなんか気づいてないと思ってた」

 え?もしかして…レイも私のこと、見ていたの?

「すました顔して、俺の視線にも全然気づかない鈍感な奴だと思ってた」

 その余計な一言に顔をしかめる私に、彼は含み笑いをして俯く。

「なぁ、俺のこと、ほんとに好きか?」

「えぇ?いきなり何を…」

「いいから、好きか嫌いか答えろ」

 俯いたその横顔が苦しそうに見えて、私は彼との距離を少し縮めてレイの頬に手を添えた。その冷たさにびっくりしながら顔を私の方に向けさせた。

「好き」

 短い、たった二文字の言葉。

 それだけでも私の鼓動が煩く鳴り、頬が熱くなる。

 たぶん、嫌いと答えていたら彼はもう私の前には姿を現さない…そんな気がする。そうすれば何も悩むことなく日常生活を遅れるだろう。だけど、その選択を私が選ぶことは一生ないだろう。彼と出会った時から、それは決まっていたんだと思う。

「レイ?いつまでもこんな所にいたら二人とも凍え死んでしまうわ。あったかい部屋に帰らなきゃ」

 そう言った私を見つめる彼が照れたように「ああ…」と呟く。…私の選択は間違っていないはずだ。