諦めかけた時に聞こえた救いの声に、急いで振り返る。

「トム!」

 良かったぁ、と続きそうになった言葉を飲み込んで、隣に来た彼に、小さく安堵のため息。

「デイヴも、アリスターさんまで。こんな所で何を」

「ちょうど良いときに来たな!高校のときは本ばっか呼んでた青二才のトムが一人前の男になってたとはな」

「先輩、言い方がオッサンになってる。いや、でも羨ましいよ本当。改めて紹介してくれよ」

 もしかしたら、高校の時の部活仲間なのかもしれない。少なくとも、デイブとアリスターという人は。

「ははは、何だか恥ずかしいな。ね、セシーリア?」

「え…ええ、そうね」

 逃げ出したい気持ちを抑えて笑顔を浮かべても、どうしてもひきつってしまう。誰にもバレてなければ良いけれど。

「どんなきっかけがあって付き合いだしたんだ?」

「告白はトムから?」

「初デートはどこで?」

 次々と投げ掛けられる質問は、もはや尋問のようで、一つ一つ丁寧に答えるトムの隣で口角が下がらないように意識を集中させなければならなかった。

 何度かトムに視線を送ってみたが、笑顔を返されるだけで、結局授業が始まる間際まで続いた。