教室を出て、ベッテの自慢話や大学内のゴシップを聞きながら歩いていたら、後ろから私の名前を呼ぶ声がして振り返る。

「あら、トム」

 気づいた私に、優しい笑顔を浮かべて歩いてくるボーイフレンド。

 彼と初めて会ったのは、大学生になって初めての授業の時だった。たまたま席が隣になって、話しをするうちにお互いの親同士が知り合いだと分かり、親にすすめられるまま付き合うことに。

 彼は私にはもったいないぐらいいい人だ。

 時々、どうして私なんかと一緒にいるのだろうと不思議に思う。

「…セシーリア、また考え事かい?」

 穏やかで優しい声。その声で顔をあげると、トムの唇が私の唇に軽く触れた。

「ううん。何でもないわ」

 いきなりのキスに恥ずかしくなって俯く私に、トムがくすくす笑う。すると頬や耳まで熱くなって、それを誤魔化すために「…もう」と膨れてみせる。

「私、お邪魔みたいだから行くわね。デート楽しんできて」

 ベッテがからかうようにウィンクをして、離れていく。その背中に慌てて「また明日!」と挨拶すれば、右手を振って返してくれた。

「それじゃあ、僕たちも行こうか」

 トムが差し出した手を取って、私たちも歩き出した。

 今日はカフェに行ってお茶をして、それから本屋に寄ったりウインドーショッピングをするつもり。

 冬の風は冷たく、頬が氷に触れているかのように思えるが、彼と繋いだ手はぬくぬくと温かかった。