長々と息をするまもなく喋り続ける電話の声に、私の息が詰まる。私はただ、ごめんなさいと呟くだけ。それを聞いても彼女のきんきんした小言は終わりそうにない。

 こうなると、私の言葉なんて母親には聞こえなくなる。私はじっと黙って耳を傾ける。お母さんは心配性だから、心配させる私がそうさせてしまうから。

 …だけど、いつからこんな関係になったのかな。

 火照っていた体は冷えきって、酸素のない水の中に閉じ込められたような息苦しさに胸を押さえる。

『セシーリア、聞いてるの?お母さんの言う通りにしてればあなたは絶対に幸せになれる。だから…』

 震え始める私の身体を、不意に後ろから抱き締める温もり。それは手から携帯を奪い取って、彼女の言葉をシャットアウトさせた。

「さっきは悪かった。もう寝よう」

 見上げると困ったような彼がいて、恥ずかしさと情けなさにどうしようもなくて彼を突き放した。

「触れないで…そんな顔しないで、同情なんてしないでっ!」

「違う…俺は…」

 違う?何が違うの?だって知っているもの、私は。初めは私と仲良くしてても、あの母親の異常な様子を見たらたちまちみんな私から遠ざかるの、同じような顔を…同情した顔をして。

「残念だったわね?ただセックスしたいだけだったのに、こんな面倒な女に引っ掛かって。もう私となんて関わりたくないでしょ。いくら必要?ホテル代と、それと…ああ、女の子を誘うお金も必要ね」