Caught by …

 私にしては珍しく、何も考えないでぽんぽん言葉が出て、彼の楽しそうに細められた目に頬が熱くなる。

「お近づきの印にキスでもするか」

「お断りよ」

「お断りなんてこっちが断る」

「意味がわからないわ」

 ふざけているのか本気なのかわからない。

 彼の肩の向こうの出窓に視線を向けていた私の手を取った彼が、不意に真顔になって、目をじっと見つめたまま手の甲に唇をそっと押しつけた。

「俺を断ることなんて出来ないし、させないさ」

 その彼の唇がさっきの腕の感触を思い出させた。

 だめだと頭ではわかっているの。だけど、もっともっと…と果てしないような欲望が沸いて私の理性を失わせる。彼に見つめられると、触れている手に力が込められると、私の中にある悪い所が出てくる。

「…キス……して」

 自分の言葉が、今のこの状況でどんな意味を持つのかぐらいは分かっていた。分かっていて、目を閉じた。今だけ、何も考えたくない。両親の期待も、ボーイフレンドの優しい笑顔も、私を真面目で気の弱い女の子だと信じる友人たちのことも、全部、何もかも。

 このとてつもなく麗しく、溢れでるフェロモンの毒牙を持つ危険な男に私を壊してほしい。

 頭の後ろに彼の手が、もう片方の手は私の手と絡み合わせる。

 そして、軽く一瞬だけ触れるキス。

 物足りなさに私が目を開けると、彼が私の上に覆い被さる。

「今のはほんのご挨拶。で、どうする?ここで止めるか、このまま俺に委ねるか」