Caught by …

　私が反抗したらそれを面白がって真似するのをやめない彼の腕を掴んでやめさせようとする。すると、彼は急に無表情になって私の腕を凝視していた。

　何かあるのかと、私も自分の腕に視線を落として、急いで彼から腕を引っ込める。服の袖を目一杯伸ばす。

　…さっき強い力で捕まれたせいで出来た痕が、色濃く残っていた。

　なんとなく気まずい雰囲気になってしまい、私はどうすればいいか分からなくて着たままだったコートを脱いでコート掛けのハンガーに通す。

　忘れかけていた、あの気持ちの悪い手の感触と腕の痛さが思い出され、息が詰まりそうになる。

　私は平然を装って彼にハンガーを渡して、コート掛けにかけるように言う。それから、暖かい珈琲でも出そうとキッチンへと向かった。

　キッチンは壁に向かうような造りになっているので、私は珈琲を入れるためのマグカップを洗うふりをして、蛇口から流れる水で痕の残った腕を擦り洗った。

　消えるはずがないと理解していても、冷たい水に手の感覚がなくなりそうだとしても、私の手は意思と関係なく洗い続ける。

　けれど、あの男の手がまだ私の腕を掴んでいるような気がして、自分の手に力が入る。

　水の流れる音と、それがシンクに落ちるバシャバシャという音だけが私の耳に鳴り響く。

　だからだろう、洗っていた手を持ち上げられるまで、すぐ後ろに来ていた彼に気がつかなかった。