Caught by …



 知らない景色、知らない背中、知らない手に導かれる知らない私。

 家を出てもう大分時間は経っている。あれから携帯は見ていない。今が何時なのかも分からない。

 多少、残った五人の事が気がかりではあったが、なるべく考えないように努めた。

 近代的なビルが建ち並び、夜闇を感じさせない人工の光、慌ただしくて乱雑した街の中が、今の私にはとても居心地が良かった。

「セシーリア、お酒は飲める?」

 ジェーンは前を向いたまま言った。ヒールの音は一定の規律を守っていて、崩れることはない。その後ろ姿は同性でも見惚れてしまう。

「少しだけなら……多分」

 正直、そんなに飲んだことがなく、自分がいかほど飲めるのかも分からない。

「そう?なら、少しなんてくらいじゃ帰れないと覚悟しておいてね」

 企みのある笑みも、やっぱり綺麗で様になっている。そんな彼女に私が馬鹿正直に頷いたら表情を崩して吹き出していた。

「今夜は退屈しないで済みそうだわ!」

 私の手を引いていた彼女がそう言って隣に並ぶと、腕を絡ませて楽しげに笑った。私もその笑顔につられて笑っていた。

 夜も更けて、昼間とはまた違う顔を見せる街で、不安と罪悪感を抱えて、けれど新しい出会いに喜び、何も繕わずに自然と笑っている自分がいた。