Caught by …

 少ない荷物とコートを持って出てきたことを、自分でも褒めてやりたい。しばらくあの家には戻りたくないし、引き返す気力もない。

 走った足がジンジンと痛んで、それを庇うようによろよろと歩き、鼻水が止まらなくてずっと鼻をすすっている姿の私は、電車を乗っていても、降りたあとも、すれ違う人には奇妙な(好奇な)視線を無遠慮に向けられた。

 なんたってクリスマスの夜に、明らかに泣き張らした目をして一人でいる私は惨めでしかないのだから。

 賑わう街の幸福そうな人達の姿は、さすがに見ているのも辛くて、なるべく誰とも目を合わせないように、存在を消し去るようにこっそりと歩く。

 そうやって、下ばかり向いて歩いていた為に、曲がり角から突如現れた足と靴を視界に捉えても、すぐには反応できなくて、次の瞬間にその人と衝突してしまっていた。

 弾かれたのは私の方で、その場に尻餅をつく。

 あぁ、今日は本当に、とことん運のついてない日。

 ため息する力もない私は、なんとか足を踏ん張らせて立ち上がろうとしていると……。

「ごめんなさい、大丈夫?」

 今し方ぶつかっただろう女性が、私に手を差しのべた。

「大丈夫です。こちらこそ、すみませんでした」

 手を取らないのも失礼な気がして、遠慮程度にその手を借りて立ち上がる。そこでやっと顔を上げて、顔を合わせた。

 私よりも背が高いけれど、華奢ですらりとした綺麗な人だった。少し気の強そうな瞳に、思わず姉を重ねてしまった。