その日は本当に忙しかった。ディナーの買い出しに、仕込み、調理、盛り付け……。家族だけのクリスマスとは比べ物にならないほど張り切っている母。部屋の飾り付けも完璧にしている。

 全てが順調だ。家族の関係も、トムとの関係も。

 こうやって、きちんとした道を進み、正しい選択こそが誰も悲しませずに済む。

 母親が特にトムとの交際にこだわるのは、彼のお父さんが会社を経営していて、世に言うお金持ちだからだろう。将来はトムが会社を受け継ぐだろうし、このまま関係を続けさせて結婚すれば、私は他人が羨む幸せを掴める。

 ……私がそれを望んでいるかどうか、母は興味なんてない。自分の娘が自分の思う幸せを手にいれるかどうかが重要なのだから。

 だとすれば、職場の一部の同僚から疎ましがられ、婚約していた男から一方的に別れられ、流産までしてしまった末に、自らの命を捨てた姉を、母は何と思っているのか。

 姉が居なくなって、その理由を知った高校生の私は、涙を流しながら言った母親の言葉が受け入れられず、今までずっと聞けなかった。


“あんな子、産むんじゃなかった”


 仲は悪かったが、姉は母親を蔑むようなことを言ったりはしなかった。ただ折り合いが悪いと。しかし、姉はその存在を母親に否定された。

 残された私の存在も、心の中では否定されているのではないか……そう、感じると母親の笑顔も私は恐ろしくて堪らないのだ。