誰も居ない、いや、もしかしたら居たかもしれないけれど、私は道の真ん中で佇んだまま、溢れる涙をそのままに携帯を耳にあてた。
私は彼からの電話を待つ事が多い。私が電話をしても彼は出てくれないことが多かったからだ。
今も、出てくれないことを密かに願っている。そんな私の卑怯さに自嘲する。
『……はい』
しかし、こんな時に限って彼はすぐに出た。電話口から聞こえる声は、いつにも増して不機嫌そうだ。緊張と、不安と、迷いに、私は考えていた言葉を全く何一つ忘れてしまって、口ごもる。
『セシーリアか? どうした』
今度は優しい声。いつもそうだった、彼は誰からの電話なのかよく確認しないで出るから、たまにかけた時にその不機嫌な声に怯んでしまう。でも、私だと気づくと、ほんの少しだが、優しい声に変わる。それが聞きたくて急に電話をかけたりしていた。
『セシーリア、今、どこにいるんだ?』
目を閉じると彼がすぐ近くに居るみたいだ。静寂は電話の向こうの呼吸さえ聞こえさせる。
「外、アパートの、近く」
震えてしまう声が、どうかばれないようにと願う。
『俺も電話しようとしてたんだ。もうすぐで、仕事が終わる。だから……』
私は思いきり息を吸い込む。冷たい空気が、私の中の熱を冷やしてくれる。そして、吸い込んだ息を吐くと、白く宙に浮かぶ。
……そういえば、あの夜の日、浮浪者に絡まれた私を助けアパートまで送ってくれた後、帰ってしまいそうだった彼を咄嗟に呼び掛けた時も、私の息が白く宙に浮かんで、それが消えた先に彼が居たんだっけ。
再び込み上げる熱と、歪んだ視界が、私に幻想を見せた。私を愛してくれる、真っ直ぐで熱い眼差しを向けるレイ。
その彼に向かって私は笑顔を浮かべた。
「レイ、私、もうあなたに会わないわ」
私は彼からの電話を待つ事が多い。私が電話をしても彼は出てくれないことが多かったからだ。
今も、出てくれないことを密かに願っている。そんな私の卑怯さに自嘲する。
『……はい』
しかし、こんな時に限って彼はすぐに出た。電話口から聞こえる声は、いつにも増して不機嫌そうだ。緊張と、不安と、迷いに、私は考えていた言葉を全く何一つ忘れてしまって、口ごもる。
『セシーリアか? どうした』
今度は優しい声。いつもそうだった、彼は誰からの電話なのかよく確認しないで出るから、たまにかけた時にその不機嫌な声に怯んでしまう。でも、私だと気づくと、ほんの少しだが、優しい声に変わる。それが聞きたくて急に電話をかけたりしていた。
『セシーリア、今、どこにいるんだ?』
目を閉じると彼がすぐ近くに居るみたいだ。静寂は電話の向こうの呼吸さえ聞こえさせる。
「外、アパートの、近く」
震えてしまう声が、どうかばれないようにと願う。
『俺も電話しようとしてたんだ。もうすぐで、仕事が終わる。だから……』
私は思いきり息を吸い込む。冷たい空気が、私の中の熱を冷やしてくれる。そして、吸い込んだ息を吐くと、白く宙に浮かぶ。
……そういえば、あの夜の日、浮浪者に絡まれた私を助けアパートまで送ってくれた後、帰ってしまいそうだった彼を咄嗟に呼び掛けた時も、私の息が白く宙に浮かんで、それが消えた先に彼が居たんだっけ。
再び込み上げる熱と、歪んだ視界が、私に幻想を見せた。私を愛してくれる、真っ直ぐで熱い眼差しを向けるレイ。
その彼に向かって私は笑顔を浮かべた。
「レイ、私、もうあなたに会わないわ」



