動悸は苦しくなるばかり。どうやって息を吸えば良いのかすら忘れてしまったようだ。

「セシーリア、愛してる」

 トムはいつものようにその言葉を口にした。

「これは僕の気持ちなんだ。誰に勧められたとか関係なく、僕の気持ちだ」

 トムの透き通るような茶色の瞳に私が写る。醜い私が。

「僕たちなら、これからも上手くやっていける」

 一切疑っていないように彼は言う。

「君と一緒にいた男のことを友人が言っていたけど、とても君に似合うような男じゃなかったって。君も少しの気の迷いだったんだろう?」

 私は固く口を結んで俯く。

 本当は、言い返したかった。大事な彼のことをそんな風に言わないでと、気の迷いなんかでも何でもないと。

 ただ、自信がなかった。じゃあ私とレイの関係は何なのかと問われれば、私は何も答えられない。

 ただ、想い合ってるだけ。レイがこの先もずっと私だけを想い続けてくれるかなんて確信はない。

「大丈夫、僕は君だけだから、君を不安にさせたりしないし、ずっと側にいるって約束する」

 トムが私の手を両手で包み込み、そっと優しいキスをする。私はその手を、まるで私のものじゃないように見下ろす。

「だからもう、その人と会わないって約束してくれる?」

 初め、トムの言った言葉の意味が頭に入ってこなかった。

 彼に目を向けると、真剣な表情がそこにあって、もう一度「約束、してくれるよね」と私がそうすると信じきったように言っていた。