Caught by …

 何が休憩も必要よ!何が経験よ!私を馬鹿にするのも…いい加減にしなさいよーっ‼

 深呼吸をしながら体の中で消化不良の怒りが爆発するのを抑えていた。きっと私からは怒りのあまりに湯気が出ていることだろう。…そんなのありえないけれど。

 せめてもの救いは、今日が晴れの日だってことぐらい。もし雪でも降っていたなら、一生彼を恨むことになっていた。

 冷たい風に身を震わせて、早足に地下鉄への階段を下りていく。

『俺はあのリリーズのカップケーキが食べたい』

 本当に彼が考えることは理解不能だ。

 リリーズ・カップケーキは有名な店で、外国でも甘党の人間ならご存知なほど。カップケーキを買うために行列ができる。

 それを買ってこいと、社会勉強だと……。

「私の分はレイより多く買うんだから!」

 それくらい許されるはずでしょ?どうせ、悔しがりもせずに鼻で笑われるだけだろうけど。こんなことぐらいしか反抗できないなんて。しかも、レイが甘いものを好きだったことが知れて嬉しく思ってる。

 …重度の病ね。恋患いを侮ると恐ろしい。

 改札を通り、ホームに着くとタイミングよく電車が来た。その銀色の箱の中、ドアにもたれて考えるのはカップケーキとレイ。

 待ちわびる彼、カップケーキを頬張る彼、満足そうな彼。

 想像して少し笑った。

 大人で、人とは違った雰囲気を持っていて、偉そうな彼とは違いすぎる姿。きっと、その姿を目の前にしたら、今よりもっと笑ってしまう。そしたら彼は不機嫌な顔をして、でも、私につられて笑う。

 窓にはいつもより楽しげな私がいた。