目玉焼きとベーコンとトースト。それと濃いコーヒー。

 目の前の彼は私が用意した簡単な朝食を静かに食べていた。ようやく現れだした朝日がレイに降りかかっていて、真っ白な髪がキラキラしていた。

 私はトーストにかぶりつきながら、ぼんやり彼を眺める。確かにレイという男は私の前にいるのに、なぜだか幻のように思えてしまう。そして、考える。先ほどの彼の言葉を。

“セシーリアが離れない限り、俺はどこにも行かない”

 映画館でも同じことを言っていた。

 果たして私はレイから離れようとするのか。どんなことが起きれば、そんな風になるのか。考えれば考えるほど、それは現実的なものではなくて。そもそも私がレイと一緒にいることさえ、都合の良い夢を見ている気分。

 伏せていたレイの目がこちらを向いた。グレーの瞳は透けるほど綺麗で、眠たげな様子が可愛い。と、のんきにトーストを飲み込み思っていた私にレイの手が伸びて、彼の方へ一気に引き寄せられると…

 目を閉じることも出来ないぐらいの速さで、唇を塞がれていた。それも官能的でいやらしいキス。驚いた私が口を閉じようとしてもレイの舌が私の舌に絡み付いて、体を離そうとしても頭の後ろにレイの手があってそれを許さない。

 乱暴なのに優しいキス。レイのキス。

 息があがって苦しくなる手前で、唇が離れていった。

「あんまり隙見せると襲うぞ」

 冗談に聞こえない言葉に赤面する私を鼻で笑って頬杖をつく。仕返しにレイのベーコンを取り上げて口の中いっぱいに頬張る。悔しげな彼に少しの優越感に浸った。