いつもの部屋、いつもの夜…そんないつもの光景の中に、彼は我が物顔でくつろいでいた。

「自分の家に帰らないの?」

 車から降りた所までは良かったのだ。てっきり、そこで別れるのかと思っていれば、彼は表情一つ変えないで私の後をついてきて、何も言わないで当たり前のように部屋の中に入り、今に至る。

「もう疲れたんだ、今から車を走らせるのは面倒だ」

 私の特等席、ごく普通の安っぽいソファーに座っている彼は「窮屈だな」なんてぼやきながら長い足を組んだ。

「それに、本当は俺に帰ってほしくないだろ?」

 小馬鹿にしたような言い方に、私の眉間が距離を縮めた。

「私は構わないわよ?別に一人で大丈夫だもの、全然怖くないから」

 彼はそれでも動く素振りもせずに、突っ立ったままの私を半笑いで見上げる。私の方が彼を見下ろしているのに、彼の方が上から目線なのはどうしてか、不思議でならない。

「へぇ…?誰も、一人になるのが怖いかどうかなんて聞いてないけどな」

 しまった!と思っても、もう遅い。彼の罠にまんまとはめられた私は悔しさに口を一文字に引き結ぶ。

「寝られないなら朝まで付き合ってやろうか?」

「馬鹿にしないで、小学生じゃあるまいし…!」

「あんなに俺にしがみついて震えてたのに?」

 映画館での事を言われて言葉につまる。

「あ、あれは……さ、寒かったの…よ。そう、寒かった!寒がりだし、冷え性だからよ」

「ふーん?泣きそうになるほど寒かったのか、それは可哀想に」

 黙る私に彼の余裕な笑み。

 …私の負けだ。