車のライトがあちこちで光るのさえ、今の私にとって煩わしく思える。

「セシーリア」

 信号のライトが赤く光る。座席に頭をもたせかけながら窓側に顔を向けている私は、彼がどんな表情をしているか分からない。分からないけど、おそらく呆れた顔をしている。

「そんなに怒ることもないだろう、まったく…」

 私からすれば、彼の大人げない悪戯に怒るのが当然だと思う。

 食事の後、地下にあるスクリーンに。少し楽しみに上映時間を待っていた私。暗くなって映し出されたのは想像とは全く異なる…おどろおどろしい映像。いわゆるホラー映画だったのだ。

 そういうものが特に苦手で、今でもまだ落ち着かない。

 目に焼き付いた映像とヒステリックな悲鳴が、私から離れないで気分が悪い。

 デートの最後がこれだなんて、なんだか嫌だ。

 彼はアパートまで送ってくれるのだろうけど、その後は帰ってしまうだろう。こんな状態じゃあ、一人で寝られない…と言っても、「帰らないで」なんて言えない。彼がその言葉をどう捉えるかなんて分かりきっている。

 ちらと彼を見てみると、携帯の画面を難しい顔で見ていた。そして、こちらの視線に気づいて顔を上げた。

「なんだ?機嫌が直ったか」

「怒ってもいなければ、機嫌も悪くないわ」

 私はまた窓に顔を向ける。

 窓の外はすっかり夜の世界。今日一日が終わろうとしている。彼との時間がこんなにも早く過ぎていくなんて。

「嘘が下手だな」

 意味がないと知りつつ彼を睨む。彼はわざとらしく肩をすくませると車を発進させた。