Caught by …

 私の言葉に納得できないのか彼が「だが…」と言いかけるのを、大丈夫だからという言葉で遮った。

「レイが側に居てくれれば大丈夫、きっと」

 彼は不機嫌な顔をして私から目を反らす。不安になった私が彼を呼ぶと、私の手を握り返す大きな手。

 何も言わないけれど、なんとなく分かった。彼は不機嫌になったのではないのだと。たぶん、素直になれないだけなんだと。

 こんな風に、レイの事をもっと知りたい。

 私の知らないレイを、もっと見たい。

 こうして二人で出掛けたり、話したり、笑い合ったり、喧嘩もしたり…。

 そんな些細な日常を彼と過ごせるだけでいい。

 今は、触れようと思えば触れられる、この距離を大切にしたい。

「一人に…しないでね」

 二人の手を見ながら呟く。

「セシーリアが俺から離れない限り」

 彼を見上げた、その瞬間に重なった唇。

「…キス魔」

 椅子に座り直した彼を睨むと、いつものごとく鼻で笑われた。

「どんな言葉より、セシーリアは俺のキスが好きだろ?」

 肘をついて挑発的な笑みを浮かべるレイに、私は言い返せない悔しさを込めて「はいはい、そうですよ!」と刺々しく言ってやった。

「ふーん…じゃあ、もっと激しいのが良いか?さっきの店でも物足りなさそうだったな」

「…結構です」

 いつか唇と舌がどこかにいってしまいそうだ…このキス魔によって。