Caught by …

 もう一度、顔を上げて確認したいけれど、また目が合ったら…と思うと出来ない。

 いや、でも偶然合っただけで、相手も私の事を知らないかもしれない。それか、他人の空似で見ていただけということもあり得る。

 そうして一人で考え込んでいたせいか、近くまで来ていた足音に気づかないで、誰かが席の前に立って「おい」と声をかけられた私は肩を飛び上がらせてしまった。

「セシーリア?どうしたんだ」

「レ、レイ…」

 料理の乗ったトレイを置いた彼は私の前の席に座り、訝しげにこちらを見ていた。その背中越しに見えるであろう先程の人物をそっと探して、安堵のため息を吐く。そこには誰もいなかったのだ。

「セシーリア?」

 レイも後ろを振り返って、首を傾げながら私を見る。私は、いつもの癖のように「なんでもない」と言いかけて、やっぱりやめた。居なくなっても、どこか不安な気持ちは消えていない。それを誤魔化した所で、彼にはすぐ分かってしまうだろうから。

「さっき…見覚えのない人と、目が合って。私の気のせいかもしれないんだけど、その人、私を知っているような感じだったの」

「何かされたのか?」

 レイは低い声でそう言うと、再び後ろを向いて辺りを見渡した。私は彼の手を握って「もう居ないわ」と言って、こちらに向き直らせる。

「本当か?いや、もう帰ろう。まだ居るかもしれない…」

「大丈夫よ、レイ。それに、私の勘違いだったのかも。誰かと目が合うくらい、よくあるわ。あなたもそうでしょ?」