画家と大家

それから部屋を出て十年、今では年に一度個展を開けるまでになっていた。


主催者のお偉方を相手にしている間に、来客者が花を置いていったと受付が言う。


メッセージカードの表には伊坂駆様と書いてある。芸名で活動している俺の本名を知る者は少ない。


誰だ?


カードを開く。




“ね、ちゃんと泣いてる?”




彼女だった。




…やっぱり嫌いだ。



癒えた筈の傷口から、熱い何かがどくどくと溢れ出した。