春の訪れを感じさせる日差しのなか、藤中高校の体育館では入学式が開かれていた。真新しい制服に身を包みワクワク気分の生徒や、新しい友達を作ろうと誰これ構わず話しかける生徒などいる中”爪田実音”は一人机に突っ伏していた。

コミュニケーション能力が皆無な実音は、誰とも話したくないオーラ全開にして寝たふりをかましていた。中学で唯一心から信用していた”黒田水桜”は元から趣味の範囲だった絵を本格的に学ぶため別の高校に入ると聞いた時は本気でついて行こうとしたが、学力もない実音では偏差値が足りず諦めたため今に至る。

(まぁ絶賛ボッチ中ってとこですかね)

まぁそんな冗談はさて置き、これからの三年間ともに過ごす仲間を探さないと私は地獄の日々を歩むことになるぞ・・・嫌だ。それだけは嫌だ。

横をチラリと見ると綺麗な目をした女の子がいた。おや?なんだか見たことあるぞ?確か面接の日に一回だけ話したような・・・。

「ねぇ君さ面接の日話した子だよね?」

思ったことを口に出してしまうのは実音の悪いとこでもあり良いところでもある。これでも本物のコミュ症なのだ、話して警戒を解いてしまえば問題はない。

「あ、そうです。やっぱりあの時の人でしたか」

「あや?もしかして気づいてたの?」

最初は返事してくれないかと思っていたがフツーに返してくれたことによって少し警戒がとけておもっいっきりタメになってしまった。まぁ同い年だしいいよね。

「寝てたから話しかけてるずらくて」

「あーごめん話しかけんなオーラ全開だったよね」

ふはは。と自分に呆れながら笑うと、相手も笑ってくれた。

「名前聞いてなかった。黒田実音っていいます、実音でいいよ」

「えっと、”笹野柚月(ささのゆずき)”って言います」

「”ささき”?」

「”ささの”です!」

なんだかいい友達が出来たようだ。