中学三年の冬。受験シーズン真っ最中のこの季節に誰も居ない教室で一人、窓を全開にして下校途中の生徒たちを眺める女子生徒。ブレザーの中に着ているカーディガンの袖を必死に伸ばして寒さに耐える女子生徒、”黒田実音(くろだみおと)”は窓の近くの椅子に座っていた。

「早くでてきてよー寒いわアホ」

そんな悪態をついていると教室のドアが開いた。

「あ、やっぱりここにいたのね。また探してんの?」

入ってきたのは”杉田水桜(すぎたみお)”だった。水桜は私の横に来て「さむ!」っと叫んだ。

「もう、毎回教室が寒いのあんたのせいだわ」

「それは冬のせいだろ」

「それの他にってはなしでしょ」

「ごめんて・・・あ」


そんな会話を交わしながら外を見ていると探していた人物が出てきたのが見えた。実音は慌てて立ち上がり窓の枠に手をつき落ちそうになるくらい身を乗り出した。そんな様子を見ていた水桜は苦笑いしながらため息をついた。

「愛されてんねー遊は」

実音が見つめる先にはクラスのムードメーカーの”飯島遊(いいじまゆう)”だった。軽く水桜を睨んでまた目線を外に戻すと、男子とふざけあって笑っている遊の姿があって思わず頬をつねった。

「まだ教えてもらってないの?」

「うん・・・今日教えてくれるって言ってたのに」

実音が遊を探して理由はある約束をしたからだ。その約束は『好きな人を教える』という約束だった。

「だってもう両思いなのは気づいてるんでしょ?」

「空気が必要なのさ空気が」

「あっそ」

そう実音はもう気づいてるんだ。彼は・・・

「ねぇ実音、遊こっちみてない?」

「え?・・・あ」

遊がこっちをみていた。目を合わせると遊が手招きした。

「いってらっしゃい」

水桜の言葉を合図に実音は走って遊のもとへ向かった。ゴールまでもう少しのところでスピードを緩め息を整える。全力で走ってきたのを知られたくないから。余裕の表情で夕の前に現れると、いつのまにやらさっきまでいた男子はいなくなっていて、今は二人っきりだ。

「よ!」
「ちっす」

無愛想なあいさつを返すと遊が笑いながら近づいてきて耳元でこう囁いた。

「お前だよ」



私のことが好きなんだって。