「じゃあね。お母さん。」

バイバイと手を振るお母さん。
新しい学年になるわけでも無い。
たかが二学期の初日だ。
普通は自力で登校しなければならないのだろうが、初日だから、と言う理由で送ってもらったのである。

「弥生さん!おはよう!」

男子が私に挨拶をする。

「おはよう。」

真顔で答える。
案の定、女子は無視。
私が男子に挨拶をされる=私が男子に媚を売っている、と変換されるようだ。
たが、女子は私をいじめられ無いようだ。
なにしろ私をいじめれば、男子に冷たい目で見られる為だろう。
女好きが。
つくづくこの姿には感謝している。
顔と体つきさえ良ければこの世でやっていける。
今も、だ。
きっと、これからも。

そこからの記憶は曖昧だ。
ぼんやりと記憶に霞が掛かったようだ。
このまま一日が終わるのか、とぼんやりした頭で考えたが、私の頭は呼び覚まされることになる。

「キャァァァァ!」

女子の黄色い歓声に私の頭は痛みとともに呼び覚まされた。

「ねえねえ、どんな男の子かな?」

「転校生かぁ!恋愛小説だと、こっから転校生との熱い恋が始まるのよね!」

どうやら、転校生が来たようだ。
女子なら飛び付くイベントだろうが、私とその他何人かは興味がないようだ。
ただ単に興味がないのか、彼氏がいてからか知らないが。
……勿論彼氏がいても歓声をあげる女子もいる。

「入ってきて!」

先生の掛け声と共にドアがガラッと開く。

「キャァァァァ!」

「なにあの子ッ!」

「超イケメン!」

女子は叫び声ともとれる歓声をあげた。
チラッと転校生を見れば、確かに顔立ちは良い。
スタイルも良い。
だが、それは外見。
人は性格だ。
と、言っても、私はもう人なんて信じないが。
すると、転校生が口を開いた。

「卯月タケルでっす!
よろしくお願いしまーす!」

チャラくピースを作る転校生。
キャー!だのカッコいい!だの五月蝿い。

「じゃあタケル。席はどうする?」

来た。
女子達の目が輝く瞬間だ。
とたんに教室には女子の声が炸裂する。

「こっちに来て!」

「違うわこっち!」

五月蝿い。

「うーん、じゃあ、俺は……あそこにする。」

転校生が席を決めたようだ。
ブーイングが巻き起こる。
精々恋愛でもしてイチャイチャしてろ。

「五月蝿い……」

「だよな!」

は?
横を見れば転校生。

「転校生、何故ここにいる。」

「え?俺がここって決めたんじゃん!聞いてなかったの?」

茶化すように言う転校生。

「転校生なんかに興味はそそられない。」

嘘ー!と言う転校生。
周りの女子も酷ッ!等と言うが、男子の無言の圧に口を閉じる。
こう言うとき、便利だ。

「お前みたいな転校生より、この教室にいる男子の方が私は興味をそそられるが?」

少し顔を緩ませ前にいる男子を見る。
ああ、なんて罪な女だろうか。
自分で言うのもなんだが。
目の前の男子は顔を赤く染める。
私は転校生に向き合った。

「と、言うことだ。私はお前に興味は無い。今ならここの教室にいる可愛い女子と横になれるが?」

緩ませた顔を無表情に戻し、言う。

「そりゃお断りだね。」

即答した目の前の転校生に顔をかしめる。

「何故だ。」

「うーん……」