これ以上は話をしたくないという雰囲気で、大翔君は私の手を握って廊下を歩き出す。
その背中を麻生先輩の声が追いかけてくる。
「まりやちゃ~ん、またねっ」
振り向くと、麻生先輩がニコニコ笑って手を振っていた。
無視するわけにいかず、軽く頭だけを下げる。
私たちが視界から見えなくなったあとの廊下で、麻生先輩は……。
「校内一のイケメン王子、ヒロ君の彼女か……。
そんな大して可愛くもない子だろって勝手に思ってたんだけど……」
降り続いていた雨がいつの間にか止み、廊下に面した窓から差し込んでくる西日に目を細めながら、ふっと笑う。
「まさか、あんな可愛い子がうちの学校にいたとはね。
う~ん、オレもまだまだリサーチ不足♪
ちょっとだけ軽くちょっかいかけてみるかな~。暇つぶしに」
お気に入りのおもちゃを見つけた子供のような顔で、楽しそうに独り言を呟いていた。

