ネクタイなんて結んだこと、ない。
うちの学校は男子はネクタイだけど、女子はリボンだから、ネクタイなんて生まれてから一度も触ったことがない。
お母さんがお父さんのネクタイを結ぶのはいつも見てたけど、結び方までは知らない。
「私、やったことないの」
ここで結べたら、すごくカッコイイんだろうけど、やったこともないのに嘘をついても仕方ないと、素直に白状する。
「女子はリボンだもんな。
じゃ、教えてやるから手出して」
言われるままに両手を差し出すと、私の手を大翔君の両手が包むように持ってくれて、ネクタイの結び方を教えてくれる。
最初から全部教えてくれてるのに、私の意識は大翔君に握られてる手と、
前髪の間から覗く伏せられた瞼に長い睫毛、それに真剣な表情に釘付け。
本当に綺麗……なんて見惚れてしまって、ネクタイ講座はどこへやら。
「で、これで出来上がり。ちゃんと覚えたか?」
顔をあげた大翔君とバッチリと目が合って、ビクッと肩を跳ねさせる。
「ご、ごめんなさい。
大翔君があんまりにもカッコよくて、その……ちゃんと聞いてませんでした」

