ーーーー2003年夏、8月17日ーーーー。



楽な私服を着てこようと思っていたのだが、今日は仕事がある。ので、スーツ姿での出勤だ。と言っても最初はいつものチャイルドセーブプロジェクトの階段下に行くのだがな。

「あーぁ、堅っ苦しいな、もう…」

苛立ちを覚え、ネクタイを緩めてカッターシャツの第一ボタンを外す。あぁ、やっぱりこの方が楽で良い。などと思っていたらそろそろ事務所に着く頃だ。事務所って言うのは階段下の事。ここに来るまでに人に会うと面倒だからと、後を着ける奴を追っ払う。最後の最後に後ろを確認する。嫌な予感がして後ろを振り返るが大丈夫そうだ、誰も着いてきてはいなかった。
そのまま、事務所のある建物に入る。立派な建物ではないのだが、三階建ての造りだ。奥行きはそれなりにあって、建物事態の広さはざっと100坪。その真ん中辺り、正確には真ん中よりはまだ少し手前だが、そこに見える階段を降りていく。
後はその階段を降りるだけなのだが、それだけでは事務所には辿り着けない。階段を降り、1つのホールを降りて次の階段を降りる。そこを降りきずにホールの下の横抜けを抜けるのだ。そこを抜ければワンルーム程の広さが売りの我が職場、チャイルドセーブプロジェクトの事務所に辿り着くと言うわけだ。この事務所を自力で発見したのは過去二人。一人は先月顔を出した入山侑里。もう一人はもういない、片桐 なのは(かたぎり なのは)と言う一人の女性だ。

「はよーっす。でも、それはやっちゃダメっすよ、やっさん!」

元気よく挨拶をしたのは早田浩輔。彼はCSPの一人。と言っても、俺と浩輔しかやっていないのだが。

「あれ?俺なんかしたか…?」

挨拶もほどほどに身に覚えのない事を言われる。

「それっすよ、それ」

俺を指差して言う。視線を降ろし、変なところがないか確認する。が、何もない。いつもと違うところと言えば…

「あぁ、スーツか?仕方ないだろ?今日は仕事があるんだから」

仕事と言ってはいるが、もちろん本職はCSPだ。俺の仕事、と言うか役割で警察に赴き仕事を聞いてくるのだ。毎日行くわけではないのが肝だ。

「お、今日はまともな仕事が来ると良いんだがな」

まともな仕事。浩輔の言うまとも仕事って言うのは、誘拐された子供を助ける仕事だ。もともとはそれを俺達がやりだしたのだ。それがたまたま警察のやつらとターゲットが被り目を付けられた。それが功を奏したのか、警察から直々に仕事を頼まれ始めたのだ。別段嫌なことはないし、ボランティアの様に報酬がなかったわけではない。だからと言って警察の犬になりたくてなったわけでもない。報酬が二倍以上に跳ねる事があると言うのが大きい。

「まぁ、そんな事は良い。取り敢えず、行ってくるわ」

気だるそうにそれだけを言うと、浩輔は息子の様にパタパタと玄関口(階段ホール横)まで見送ってくれる。

「良い仕事、持ってきてくれっすよ!」

はいはい、と軽くあしらい俺は事務所を出た。