「しょうちゃん! もー、帰って来てるんなら言ってよ!」

 一通り酒類を運び終えて家に戻ると、玄関框にふくれっ面の少女が座っていた。

 「後で来る」と宣言をしていたらしい清原結衣だ。

 艶のある髪は以前合った時よりも長くなって、顔立ちも女っぽさが増している。

 一瞬ドキリとしたことは口が裂けても言えないが。

 ミニスカートにも拘わらず、低い框に腰掛けて体育座りをしているあたりその辺の自覚が無いらしい。

 と言うより何より、幼馴染とは言え健全な男子高校生が家に独りと解っていてこうも無防備に押しかけられては男としての立場が無いというものだ。

「何で一々お前に報告しなきゃいけねぇんだよ」

 心の葛藤を悟られまいと、つっけんどんな物言いで乱暴に靴を脱ぎ、さっさと居間へ向かう。

 その後をてこてこついて来る結衣は、さも当たり前のような顔をして座卓近くに腰を下ろし、パチリとテレビのリモコンを操作した。


 ……お前ん家か、ここは。


 ツッコミは口に出さずに閉まっておく。

「しょうちゃん、お茶ー」
「あのなぁ……」

 どうも自分は女にこき使われる星の元に生まれたらしい。

 あかねを筆頭に三重子然り、結衣もまた然りである。

 恨めしそうに結衣を見遣ると、にこにこと邪気の無い笑顔でこちらを見ていて、そんな顔をされては断るものも断れないではないか。

 小さく溜息を吐いて仕方なくお茶の準備に取り掛かる。

 茶筒の蓋を開けると、茶葉がほんの僅か残っているだけだった。

 確かシンク下の収納にストックがあったはずだ。

 億劫な足を動かして扉を開け、段ボール箱の横に置かれた茶葉の袋に手を伸ばす。

 こんな所にこんなもの閉まっていたかなと首をかしげて段ボール箱を見ると、そこには恵比寿様のイラストが描かれていた。

 三重子が買い忘れたと言っていた例のビールだった。

 ストックしていたのを忘れていたのだろう。

 そそっかしいのもここまで来ると心配になってくるなと思いながら、扉を閉めた。

「わーい、ありがとう」
「わーいってお前なぁ……」

 ぶつくさ言いながらお茶を出してやると、結衣は子供のようににこにこしながら湯呑に口をつけた。

 一体、結衣はどうして家に来たのだろうか。

 結衣の様子を眺めながら、翔一はどんな事を聞かれるのだろうと内心でそわそわしていた。

 誠に何か聞いたなら、自分がどうして戻って来たのか訊いてくるに違いないからだ。

「しょうちゃん、野球どう?楽しい?今年は甲子園行けるかなぁ」

 来たか、と思った結衣の質問は、確信に触れているようないないような、微妙なものだった。

 どう答えればやり過ごせるだろうか。

 上手い答えが見つからないまま、低く呟いた。

「関係ねぇだろ、お前には」
「関係ないってこと無いと思うんだけどなぁ……」

 突き放すような物言いの翔一に口を尖らせた結衣は、それでもすぐにまたにこりと笑った。

 結衣は昔からこうだ。憎めない所でもあるが、最近では侮れないと言った方が正解かも知れないと思うようになってきていた。

 笑顔の真意がどこにあるのか解らず、翔一は話題を変えようと結衣に投げかけた。