志ーこころー 【前編】─完─



志乃「……お待たせ~…………」



重い足取りで沖田の元へと向かう




沖田は待ちくたびれたのか、畳の上で座って、ぼーっとしていた





怒ってるかなぁ……。なにせもう1時間は夕に超えているだろう




着物を見られることの気恥ずかしさと、とんでもなく時間が経ってしまったことのちょびーっとだけの罪悪感とが入り交じって、気まずい





志乃「……あのぉ~……。遅れて申し訳ないです~…………。」





沖田のそばまで寄って、言った。




沖田「遅いです~……っ????!!!」






沖田は目を真ん丸くした






沖田「……あの……。つかぬことをお聞きしたいのですが……」




志乃「なんでしょう」




沖田「…………あなた、志乃さんですか?」



志乃「いかにも」




沖田「…………………………」






これはやばい。やばいだろ、と沖田。



元々すごく整っている顔だから、美少年、と思っていたけれど……




志乃「……なんッスか。ジロジロ見ないでください。腐ります。」




……やはり目の前の女人は志乃だった






沖田「化けたもんですね~」



志乃「フアッキュー」



梢「そやろー?もーびっくりやろー?」





いつの間に梢さん?!





ほっぺたに手を当てて、あたしを満足げに見ているご様子





沖田「では。ここに置いときますね」



そう言って銭を出そうとする沖田を、梢さんがとめた



梢「ええんよ!むしろあたしのほうが感謝してるんよ?……それはあたしの気持ちやで!黙って受け取っとって!」




なんとなく腑に落ちない感じだったけど、沖田は「ありがとうございます」、とだけ言うと、先を行ってしまった



志乃「……置いてかれた……」



梢「……ふふふ。ちゃうんよ、志乃はんがえらい可愛らしいで困ってはるんよ」





そんなわけない、と言いたかったが辞めておいた。




否定したら、また梢さんに睨まれそうだったから