志乃「でも。
でも、女将さん……ううん、おばさんには会いに来るから。」
あたしは、女将さんと呼ぶのをやめた。
彼女は、女将さん”という名の、おばさんのご先祖様だ。
証拠はないけれど、なぜか確信は、ある。
もし仮にそうでなかったとしても、この人は、もう他人ではない。
あたしの愛する人。大好きな人。
おばさん”にそっくりなこのひとは、あたしと初めて会ったにも関わらず、優しくしてくれた。
それに、あたしの瞳を見ても、嫌な顔一つしなかった。
それどころか、受け入れてくれたんだ。この人は。
そして、近藤さんと同じように、あたしに居場所を与えようとしてくれた。
十分だった。温もりに触れたあたしには、十分すぎる。
女将さん「……ほんまに?ほんまに会いに来てくれるん??」
虚を突かれたような顔をしたおばさん。
その顔は、驚きと同時に、喜びも伺える。
志乃「ほんとです。
なぜなら、あたしはおばさんを好きになりましたから。」
あたしは、おばさんに微笑んでみせた。
あたしも、応えなくてはいけない。
お天道様のようなこの人達に。
あたしの、今まで分けられなかった優しさと、この喜びを。
女将さん「うぅっ…………………………」
うるうると、大きな瞳からは綺麗な涙がこぼれ落ちそうになる。
うわーん、とあたしに抱きつくおばさん。
こんな20くらいの女の人があたしに抱きつくなんて、傍から見れば、ちょっと不思議。
……てか身長差半端なくてあたし抱きかかえられてるし。
おばさん、おばさん!
あたし、宙に浮いてる!!足地面についてないよ〜〜!!!!
女将さん「志乃はーーーーん!!!」
志乃「わかった、わかったから苦しい。死ぬ」
グイグイ容赦なくおばさんに抱きしめられてるから……首が……首がしまって……
女将さん「あらやだ!ほんと!!」
……やっと開放してくれた……
あたしは乱れた首元を整えながら、おばさんと微笑みあった。
女将さん「お嬢はんがあたしのことを“女将さん”、なんて他人行儀に呼ばなくなって嬉しいんですけどね、あたしはおばさん”いう歳ではおましまへん。
どうせなら“おねいさん”がええですわぁ!」
“おねいさん”は、涙の浮いた目で、チャーミングに笑ってみせた。
うーん、と、おねいさんは口元に人差し指をあてて、何か考え込んでいる。
女将さん「そーですなぁ……。ほな、梢(こずえ)姉さん。
……なーんて、どやろ。」


