志ーこころー 【前編】─完─



志乃「でも。






でも、女将さん……ううん、おばさんには会いに来るから。」





あたしは、女将さんと呼ぶのをやめた。





彼女は、女将さん”という名の、おばさんのご先祖様だ。





証拠はないけれど、なぜか確信は、ある。





もし仮にそうでなかったとしても、この人は、もう他人ではない。




あたしの愛する人。大好きな人。




おばさん”にそっくりなこのひとは、あたしと初めて会ったにも関わらず、優しくしてくれた。





それに、あたしの瞳を見ても、嫌な顔一つしなかった。





それどころか、受け入れてくれたんだ。この人は。








そして、近藤さんと同じように、あたしに居場所を与えようとしてくれた。





十分だった。温もりに触れたあたしには、十分すぎる。





女将さん「……ほんまに?ほんまに会いに来てくれるん??」




虚を突かれたような顔をしたおばさん。




その顔は、驚きと同時に、喜びも伺える。







志乃「ほんとです。





なぜなら、あたしはおばさんを好きになりましたから。」




あたしは、おばさんに微笑んでみせた。



あたしも、応えなくてはいけない。




お天道様のようなこの人達に。





あたしの、今まで分けられなかった優しさと、この喜びを。





女将さん「うぅっ…………………………」




うるうると、大きな瞳からは綺麗な涙がこぼれ落ちそうになる。




うわーん、とあたしに抱きつくおばさん。




こんな20くらいの女の人があたしに抱きつくなんて、傍から見れば、ちょっと不思議。




……てか身長差半端なくてあたし抱きかかえられてるし。





おばさん、おばさん!





あたし、宙に浮いてる!!足地面についてないよ〜〜!!!!





女将さん「志乃はーーーーん!!!」



志乃「わかった、わかったから苦しい。死ぬ」





グイグイ容赦なくおばさんに抱きしめられてるから……首が……首がしまって……





女将さん「あらやだ!ほんと!!」






……やっと開放してくれた……




あたしは乱れた首元を整えながら、おばさんと微笑みあった。






女将さん「お嬢はんがあたしのことを“女将さん”、なんて他人行儀に呼ばなくなって嬉しいんですけどね、あたしはおばさん”いう歳ではおましまへん。



どうせなら“おねいさん”がええですわぁ!」







“おねいさん”は、涙の浮いた目で、チャーミングに笑ってみせた。







うーん、と、おねいさんは口元に人差し指をあてて、何か考え込んでいる。





女将さん「そーですなぁ……。ほな、梢(こずえ)姉さん。



……なーんて、どやろ。」