「…………一斗くん、出たよ」
身支度をしてベッドに腰掛けている一斗に恐る恐る声をかけた。
さっきとは違い、服をちゃんと身につけている。
「………二日酔い、大丈夫か?」
酷く優しい声色。
でも顔は全然微笑んでなんかおらず、無表情だ。
一斗は怒ると、昔から無表情になっていた。
ぎゅうぎゅうと心臓が押しつぶされているような感覚に耐え、一歩一歩一斗に近づく。
「……もう、大丈夫…」
「そうか。とにかく、隣座れ」
一斗に言われた通り少し離れた場所に腰を下ろすと、思いのほかベッドが軋んで嫌な音を立てた。
「………美海」
いたたまれなくなって下を向く。
「……美海、こっち向け」
「………やだ」
「いいから。目ぇ見て話してーから」
ほら、と一斗に手を掴まれて咄嗟に一斗を見た。
でも微笑んでいるわけでもなく……ほんっとうに怖い無表情。
顔が本当に整っている人の無表情は、なんとも言えない威圧感がある。
……もう本当にやだ。
「美海、お前何で合コンなんて行った?何で酒なんか飲んだ?」
「………………」
一斗の質問に答えれずに、ただ黙り込んでしまう。
「………美海」
「……友達に数合わせだって誘われて行ったら、大学生との合コンだったんだもん」
「じゃー何でそんな気合入れた服着てんだ?男に食ってくださいって言ってるよーなもんだろうが」
「…………それは、ただ自棄になって……」
キレてる一斗を本当に久しぶりに見た。
「あ?誰も心配してくれないならってか?」
「ち、ちがくて…!」
そして一斗は私の考えを怖いほど汲み取ってしまう。
この人の前で嘘なんてものはつけないのだ。
グッと一斗の眉間に皺が寄せられた。
「…………美海はさ、一体何望んでんだ?」
涙をこらえるため唇をきつくかむ。
一斗前で涙を隠そうと笑っても、逆にこの人は私を泣かそうとして来る。
握られている手にも力がかかって、少し痛かった。
「おじさんたちからの愛情か?それとも頭のよさか?」
ただ首を横に振る私。
………もう、とっくの昔にそんなものは諦めている。
ただ極たまに私を見ようとしない父と母に悲しくなるだけだ。
でも親からの愛情を受けることを諦めてしまった私には、悲しむ権利すらないのは分かっていた。
「ならなんだ?男か?」
また私はただ首を振るだけ。
私が欲しいものは、もう絶対に手に入らない。
「______それとも、俺か?」
じわり、と口の中に鉄の味が広がった。
直球的な一斗の問い。
もしその問いに私がどう答えたかで、一斗が私に対する接し方を変えるのだろうか。
いや、そんなはずはない。
一斗はいい意味でも悪い意味でも、自分の正義に直結なんだ。
だから私は、泣かないように唇を強く噛むことしか出来ない。
私が欲しいものは私だけを見てくれる"先生"だ。


