「……とにかく、店出るぞ。和、こいつと俺の金今度払うから。今日はもう帰るわ」
「は?おい、一斗!」
「み、美海!?」
一斗は私を抱き上げた。
咄嗟に一斗の首に手を回す。
そして一斗は和くんや夏穂の制止の声を振り切って、店の外へと向かった。
外に出ると生温かい温度が体にまとわりつく。
「いったん降ろす」
さっきまでとは違う優しい声。
泣きそうになった顔を一斗の襟首に押し付けたけど、あっけなく離されて足が地についた感覚がした。
でもうまく立てず崩れ落ちそうになる。
けれど一斗が腰に手を回して支えてくれたので、辛うじて足を崩すことはなかった。
「……家に送るわけにもいかねーしなぁ。どーすっかな」
暫く流れる人ごみの中で立ち尽くしながら何かを考えていた一斗。
不安になって、またぎゅっと一斗の腰に抱きついた時。
「…………は?」
ふと、聞き覚えのある声が聞こえた。
自然と顔をそちらに向ける。
「…………あ、」
そこには、先生がいた。
バチリと目が合う。
咄嗟に一斗から腕を離そうとしたけど、勢い余ってこけそうになった私を一斗が引き寄せた。
「あっぶね。…美海、どした?とりあえず……どっかで酔い冷ませてから帰るぞ」
なんで、ここに……。
「………美海?」
一斗にさらに腰を寄せられ、ハッとした。
「いち、と………」
やばい。
グラつく頭に警報が鳴り響いている。
カンカンカンカン_______。
「なに、してんだ……?」
昨日ぶりに聞いた、先生の声。
「……は?あんた誰?」
でもそれに言葉を返したのは一斗だ。
やばい。
「………あぁ、もしかして美海の男?」
一斗の声が低くなった気がした。
「………違う。ただのそいつの高校の教師だ」
「………へぇ。教師か。イケメンじゃないですか」
美海好みの。
と冷たく発した一斗。
「いち、と………」
腰に回されている手に力が込められた気がした。
「そいつ、確実に酔ってるよな?高校生になにやらせたんだ?」
「生憎飲ませたの、俺じゃないんで。この中にこいつの友達っぽい子がいたのでその子に聞いてみて下さい」
ほら美海行くぞ、と一斗は先生に背を向けた。
私は先生を見ようと顔をひねるが、運悪く酔った上にヒールなんてものを履いてしまっているので足がぐらついてしまう。
「ほら、ちゃんと捕まれって」
未だバクバク鳴っている心臓で、一斗に必死でしがみついた。
あぁ、まずい。
頭に鳴り響く警報は未だ消えない。
“先生”が、ここに二人いる。
私が過去に恋焦がれていた先生が、今恋い焦がれている先生が。
だんだんと警報の音が大きくなる。
カンカンカンカンカンカンカンカン________________。
酔った頭では、正しい行動なんて見出せるわけがない。


