「でも、それは間違っていたの」

彼女の言葉に、ある種の力がこもる。

「わたしは全然気づいていなかった。あの人がいれば幸せだって。

あの人のそばにいられるだけで幸せだったのに。

忘れていたの。ちゃんと見えていなかったの。

それに――

支えてあげればよかった。

幸せにしてもらうことばかり考えていないで、

わたしがあの人を幸せにすることだってできたのに。

できたはずなのに。

何日かして、それに気がついて戻ったの。

でも、もう遅かった。

彼は、いなくなってしまっていた」

ボクはただ、彼女の話を聞いていた。

そうすることが、今は正しいような気がしたから。

まだ、彼女には言い残したことがあるような気がしたから。

紗良奈はしばらく黙って泣いていた。

苦しそうに息を吸いながら、悲しみを垂れ流していた。