お辞儀をしたまま
一向に顔をあげないので
拓弥はとても優しい声と
とても爽やかな顔で
「顔あげて?」と発した。

それでも(恥ずかしさのあまり)
顔をあげられない月夜に、
しゃがみこみ、無理矢理目線を
合わせると、女子なら誰もが
見惚れるような笑顔で

「俺が勢いよく
飛び出したのが悪いんだから、
奏さんがお辞儀するところじゃないよ?
だから、顔あげて?」

と更に付け足した。
さらりと少女漫画でも中々
みれないキザさを爽やかに
よってのける所が恐らく
この学校で一番格好いいと容認され、
奏来と同じく人気者である由縁だろう。


さっき奏来に向けていた時の
オーラを微塵も感じさせない
爽やかさに、奏来が舌を出し
顔をしかめたのは当然のことだ。


拓弥が自分から目線を
外さずじっと顔をあげるのを
待っていることは
月夜もわかっていた。


けれども
月夜ができることは、
合わせようとされた視線から
目をきょろきょろ動かし、
瞬きを繰り返すことばかりで、
僅かに開かれた口がはくはくと
開閉するも、言葉が何か
紡がれることは無かった。


その姿は居たたまれないほど小さく、
あまりの静けさに
月夜の心臓の音が聞こえてくるのでは
無いかと思うほどであった。



そんな時間が数分....
いや、実際は数十秒であったが。




一番最初に動いたのは、
この空気に耐えられなくなった、









奏来だった。