臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)

 山本が言った。

「お前らぎこちねぇなぁ。……パンチが当たりそうな所に、目の焦点を合わせてみろ。そしたら集中出来っかもよ」

 三人は、さっきより少し集中しているようである。


 ペチッ。

 内海が康平の後頭部を軽く平手で叩く。

「見物してる余裕はねぇぞ」

「す、すいません!」

「オメェは康平だったな。次のラウンドから鏡を見ながらシャドーだ。フォームだけを意識してシャドーをしろ」


 ブザーが鳴り、康平は鏡を見ながら構える。

 内海は康平の隣で見本を見せながら言った。

「構えた時は二つの点を意識するんだ。一つは正面から鏡で自分を見た時、両腕が胴体と同じラインにあるようにしろ。もう一つは下っ腹に少し力を入れろ。……下っ腹の少し左側だな」

 内海は話を続けた。

「パンチは、打ち出す時に自分の腕をアバラで押し出すのを意識するんだよ」

 そして自らパンチをゆっくり打って再び見本を見せる。