臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)

「それは置いといて、これから図書館へ行くんだったら今オニギリ作ってあげるからね」

 母親が台所に走っていった。

 ボクシング部に入った頃はあまり賛成していなかったが、休みの日に図書館へ勉強をしに行く康平を見て、最近は何気に協力的になっていた。


「昨日の電話は女の子でしょ? 一緒に勉強してるようね。何なら家に遊びに連れて来なさいよ」


 康平は慌てて言い返す。

「そ、そんなんじゃないよ」


「家の電話、居間の傍だから結構筒抜けなのよね。……会話を聞かれたくなかったら、次のテストの成績を二十番以上あげなさい。そしたら携帯買ってあげるから」

「ホントだな? 必ず買ってよね!」

「お父さんにも言っておくからね。但し成績が上がったらの話よ」

 携帯電話は、亜樹の他にクラスメートも持っていた。今の康平にとって、それは人気ゲームよりも欲しいアイテムだった。


 急に勉強意欲が湧いた康平は、急いで図書館へ向かった。