臆病者達のボクシング奮闘記(第一話)

【私も康平に用があったんだ。話長くなりそうだから、家に掛け直してもらったのよ。ゴメンね。でも普通の電話から携帯に掛けると、料金がかかるからね】


 亜樹は、お高い外見と矛盾してしっかりしている……というより、妙にオバサン臭い所があった。

 康平は、口には出さないが内心可笑しくなっていた。


【俺の用件は短いから、先でいいかな? 明日用事があって、図書館には行けそうにないんだよ。出来の悪い生徒がいなくて、ホッとすると思うけど】

【そんな事ないよ。ケチつける生徒がいないと、結構寂しくなるんだよね】


 口では敵わない事を悟った康平は、意図的に話題を変えた。

【……ところで亜樹の用件て何?】

【そうそう、日曜日ってボクシング部は休みだよね?】

【……そうだけど】

【綾香が映画のチケットを四枚、兄貴からもらったらしくてさ。日曜日に康平と健太君を誘ってみようって、綾香が言い出したのよね。……でも、綾香って結構内気なんだ】

【へぇー】

 康平は他人事のように聞いていた。