レベルが段違いに上の人間を見ると、ごく僅かの人を除き大抵はブルーになるものだ。

 一年生達は残念ながら大抵の人間であり、まして今日から練習の相手をしてもらう予定だから、より不安な気持ちでシャドーボクシングをしていた。


 四人の気持ちにはお構い無しに、ラウンドは進んでいく。

 四ラウンドのシャドーボクシングが終わると、梅田が口を開いた。

「有馬、ヘッドギアとカップ、そしてマッピを付けてお前からリングに上がれ!」


 山本は既にリングに上がっていて、肩を動かしながら中を歩いていた。


 有馬は急いで準備をしてリングに入ろうとしたが、その際にロープの二段目に足を引っ掛けて転びそうになった。


 緊張している有馬の心情を察して……、というより、笑う余裕のない一年生達は黙って見ていた。


 ラウンド開始のブザーが鳴った。お互いパンチがないまま二十秒が経つ。


 梅田の声が練習場に響く。

「どうした有馬、ビビってんじゃねぇぞ! パンチ出してみろ」


 堪らず有馬は左ジャブを打つ。

 しかし顎が上がり、反対の手はガードもせず下がりっぱなしだ。おまけに出したパンチは萎縮していて伸びていない。