失 楽 園




「姉さん」


部屋で傷の手当てをしていると、
決まって恭夜は救急箱を持って
私を訪ねてきた。


「恭ちゃん」


その頃、私は恭夜に対する呼び方を、
『恭ちゃん』に変えていた。

それは微かに感じる、
弟から滲み出る激しい欲望を
暗に抑制するためか。

何故か『恭ちゃん』と
呼ばなければならない気がしたのだ。



あの猫なで声の穢らわしい、
母親だなんて到底思えない
女の真似をして。