私はとても、
しあわせな子どもだった。

若く美しい母。
優しく尊敬できる父。

何不自由なく、
満たされた生活を送っていた。

けれど母が弟を身籠ってから、
私のしあわせは端から
ぼろぼろ崩れていった。


美しかった母の身体は、
醜くひきつり膨らんだ。
母は愛おしそうに腹を撫でた。


私は母の胎内に巣食う弟を、
寄生虫のようだと思った。

父と母の目は、私ではなく、
まだ生まれてもいない弟に
向けられるようになっていった。

 私は強烈な劣等感に苛まれた。


「あなたはお姉ちゃんになるのよ」


歌うようにそう言った母の言葉を、
私は理解することが出来なかった。

腹の中にすっかり居座った
私の中の醜い感情が、
私を飲み込もうと口を開けていた。

ソレが産み落とされてから、
両親の弟の溺愛ぶりは
更に悪化した。

まさに盲目と言った言葉が似合う、
両親たちのソレに注がれる愛情。


私は幼いながらに、
ソレに嫉妬した。

私は、ソレが嫌いだった。



 大嫌いだった――……。