サヨナラなんて言わせない

それから、あの原因不明の恐怖に苛まれて自分ではどうにもならなくなった時には決まって、俺は女の気配を漂わせるようになった。

香水の匂いをつけて帰ったり、
彼女といる時にメールや電話のやりとりをしたり、
写真を置いておいたり、
涼子に詳しく聞かれても肯定も否定もしなかった。
浮気してるとも言っていないが否定もしない。
彼女が疑うには充分な状況を作り出していた。

自分のクズっぷりに反吐が出そうだった。

だが発覚する度に涼子があの時のように俺に泣いて縋ってくれるその姿に、堪らなく俺の心は満たされていった。

「私だけを見て」
「どこにも行かないで」
「司が好きなの」

普段はなかなか言わない言葉で俺の心を引き止めてくれる。
それが自分への想いの大きさを示してくれているような気がして、
不安定な俺の心は癒やされていく。


彼女の自分への想いを実感する度に俺はいつも以上に彼女を愛した。
まさに溺愛という言葉がふさわしいほどに。


愛すれば愛するほど、離れたときにはそれ以上の不安に襲われる。
その反動に苦しみながらも、俺は歪んだ愛情を止めることができなかった。